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2010年 02月 03日

「お客様はどちらからですか、山中の湯は何てったって朝湯に限りますよ、今朝は私が一番湯でした。」と自慢げに話し、何かと人なっつこく話しかけてくる。旅人に対するお愛想なのだろう。湯座屋の周りでは、そろそろ、朝市が立つらしい。今度は、“市”支度の女衆と話がはずんだようだ。
 翁もそそと旅籠の路地に消えることとし、湯けむりの中を小走りに裏手に回ると、川風が突然頬をなぜ、大きな構えの屋敷が現れた。水打ちをしている小間使い風の男に「どういう方のお屋敷でしょう。」と尋ねると、「扇子屋の別邸です。お客様お泊りのお隣の」
 「はて、私の宿をご存知とは。」
 「はい、お召し物でわかります、泉屋様でお泊りで御座いましょう。」
 「成程、左様ですなあ。」
 「なあ~に、少し、滞在なされれば直に、お客様のことは街中に知れ渡りますよ。」
 「さてさて、これはちと油断がなりませんなあ。」
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by hirai_tom | 2010-02-03 21:22

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