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2010年 02月 02日

七月二十八日(陽暦九月十一日)
           快晴。夕方薬師堂其外町辺ヲ見ル。夜ニ入雨降ル。

「宗匠様お目覚めでございましょうか・・・・・今朝は思ったとうりの快晴でございますよ。」
 「北枝様は早くから朝湯でございます。左様になされてはいかがでございましょう。」
 「さてさてこの地では朝湯に始まるようですな・・・・それはちとご遠慮いたすとして、ここは朝餉前のひと歩きとしましょう。」
 芭蕉が格子戸をくぐり表に出ると、湯座屋の戸板にもたれていたゆかたベーの一人が、湯客の着衣を片手に持ち直し、襟を整えながら頭を下げ、「おはようさんでございます。お連れの方はもうすぐおあがりなされますよ。」と話しかける。

昨夜の一時の雨で、四方の山々に精気がよみがえり、あたかも水墨画を見るようである。ひときわ高い山の頂に向かって山裾から湧き上がるように霊気が立ち上っていく。
 「あれは何という山です」
 「あ、あの、小富士ですか」
 「なるほど、小冨士と云いますか」
  湯上がり連れの中の年長者と思しき男が「あの山の頂きには不動・地蔵・釈架の三尊が祀られ、不地釈ヶ岳ともいいますよ。」と言いながら近寄って来た。
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 「忘れしゃんすな山中道を。東や松山、西や薬師。」
 山中節にあるとおり、東山方面から見た山中温泉の遠望。「菊の湯」や「上等湯」を中心に温泉街が形成されている。整然とした湯の曲輪の町並みが、幕末の風情を感じさせる。
 

by hirai_tom | 2010-02-02 11:53

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