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2010年 01月 29日

才次郎が屋敷に消え、半時も過ぎたろうか。
 「随分と話が弾んでおられますなあ。」
 控えにいた曽良と久米之助が二人の話に加わるように座敷に入った。
 「京、江戸と昔の事で話が尽きぬわい。こ奴も久しう間に、ほれ、たちまち老いぼれた。」
 「何々、ほれ、この通りぞ。主と違うて俺は不死身ぞ。」
 「やはり、お二人様の中には吾等には、ちと、入りきれませんなあ、河合様。」
 「左様にて候。」
 と、曽良は深々しく頭を下げる。四人は会心の笑みを持っていた。久々の心地よい笑いである。
 「所で、北枝は如何している。大丈夫かな。」
 「はい、ごゆるりとお休みで御座います。」
 「お師匠を無事にお護りなされ、お疲れが出たので御座いましょう。」
 「刀研師故、御油断召さるな。奴がいると、どうも動きがとれぬわ。仮病で逃げるしか手だては無いわい。」
「左様か、心して当たらねばならぬな。しかし、奴の持ち歩く杖にはたまげたぞ。」
 「左様で、北枝様の持ち歩く杖は、此方にまでもお噂が届いて居ります程に」
 内輪の笑いは、何時までも止むことを知らぬようである。
 
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by hirai_tom | 2010-01-29 18:17

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