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2010年 01月 23日

「おう、あの画が守景。そうか、そうだったのか。左様か、あれは並みの手ではないと見たが、守景であったのか。俺があの絵皿から掴んだものは大きいぞ。まさにあれこそ太公望じや。あの釣り人、韓人のようだったが。優雅にボラを待つ釣り人の向こうから浮き浮きと脚早で歩いてくる若者の話し声が今にも聞こえそうだった。これから、さあ、あの二人は連れだって何処へ遊びに行くのやら。そこら辺りをさらりと描くとこなんぞは見事という外はない。やはり狩野派を飛び出すほどの男よ。俳諧の極意も正にあれでなくては。」
 「そうか、お主も左様に思うか。」
 「所で、何ぞあったか。久隅は既に加賀にはいないのか。」
 「本藩と大聖寺藩の確執ぞ。」
 「お家の事情と云う奴か。」
 「そうよ、俺もそろそろ身の置き所を考えておこうと思ってのう。」
 「しかし、それがお主の狙いではなかったのか。」
 「む、そこが我が身の辛さよ。お主も今にわかる時が必ず来る。使命は第一ぞ。おかげで誰にも負けぬものはつかみ得た。しかしのう、そうなるとつらい。俺をしたって周りが動き出すのよ。何も知らぬ者までもがな。左様、誰をだますといっても身内を欺くは辛い。このまま消えようとさえ思う事がある。近頃は里心で京や肥前に帰るものも出る始末でのう。」
 「今の主の悩みはそれか」
 「因果応報ぞ。頼りにならぬ子孫を持ち、御先祖様もさぞ悲しんでいよう。その内、お主が御本尊様に見える時が来るやもしれぬ。その折にはよしなに頼むぞ。」
 才次郎は大きく笑った。それが才次郎との江戸での別れであった。
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by hirai_tom | 2010-01-23 07:42

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