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12-2   

2010年 07月 05日

 戌の刻、泉屋奥座敷   
一芭蕉・曽良・北枝・自笑・桃妖一

「御師匠様。明日はいよいよ御立ちの日と成りました。御名残り惜しゅう御座います。」
「随分長い間御世話を戴きましたな。皆様方に余りに良くしていただき、ついつい帰る舟を失いかけて居りました。御蔭さまで曽良の身体も癒えました。御蔭を持ちまして明日は心置きなく旅立つ事が出来ます。」
「御師匠の仰られるとうりに御座います。去れど、今日で山中の長湯と別れるは何とも心残りに御座いますなあ。」
「今宵が最後の上げ湯と思うと、格別の想いじゃな。皆様方にはお礼の句を贈らねばな。」
 翁、餞別の句を詠み、桃妖に渡す。
    “湯の名残今宵は肌の寒からむ”
「是は誠に有難き事で御座います。久米之助、明日は皆の衆にもお披露目せねばな。」
「伯父御様。町衆も喜びましょう。」
 北枝も続く。
    “きくの里みるたびなかむゆの名残”
「誠に名残が尽きぬが、山中湯には町衆が。金沢にはこの様に北枝を始め良き衆が居る。明日出向く小松にも頼もしき仲間衆が募る。加賀は“天下の書府”と豪語する所以じゃな。」
「御師匠。町衆は別として、天満宮の御方には心をお配りせねばと。」
「何々、同じ道を歩む者同志、構えるものでもなかろう。」
「去れば、今宵は曽良様と打ち合わせも御座いましょう程に。」
「其のように致しましょう。昨夜も三日月は逃しましたが、今宵も此の雨では句も浮かびませぬ。此処は御師匠に先んじて美濃の衆と名月をむかえる事と致します。」
「そなたには相済まぬ事と成ったが」
「“同行二人”の御二人に御座います。別々に御歩かれても想いは御一つ、処は違えども同じ名月を見られる事で御座いましょう。」

by hirai_tom | 2010-07-05 16:15

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