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2010年 06月 26日

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 八月 四日 (陽暦 九月 二十七日)
               朝、雨止。巳ノ刻、又降而止。夜入、降。

「御師匠。御目覚めで御座いますか。昨夜は随分と疲れました。」
「はいはい、私も同様で。昨夜からの雨で、ちと、気が滅入って居りました。」
「はて、曽良様は。」
「何、矢張り此の雨が応えたようで。朝湯の様ですな。」
「さてさて、山中の朝湯が、すっかり身に付きましたかな。」
「さて、如何したものかな。明日は、吾等は小松へと戻る旅立ちだが。曽良も一足先に大正寺へとな。」
「曽良様の御身体が気に掛かりますかな。」
「む。其処での相談じゃが。三吟は昨夜までと致すして。」
「続きは御師匠と私とでと云う事で。」
「何せ、此処は一つ曽良との別れ故、格別に“三両吟”も一興かと」
「流石は御師匠。私に異存が有る筈も御座いません。」
「いざ出立つとなれば、曽良も何かと身支度もと思うてな」
「曽良様には左様に。」
「曽良はその様にと」
「御師匠、昨夜は随分と湯女を待たせてしまいました。」
「それは、気の毒を致しましたな、
       ”手枕にしとねのほこり打ち払ひ”       翁
如何ですかな」
「これは参りました。」
「左様かな」
「今朝は、早速まいりましょうか」
   翁と北枝の歌仙となる。
       ”うつくしかれと覗く覆面”            北枝
「さてさて、湯女はほっ被り、此の地では獅子とな、ここは・・・若衆といきましょう。」
   この様にして、山中湯での”翁直しの三両吟”が巻かれていった。
       ”つぎ小袖薫(たきもの)うりの古風也”    翁
         (此句に次四五句つぎて、しとねに小袖気味よからずながらなおしがたしとて、其儘におき玉   ふ。)
       ”非蔵人なるひとのきく畠”           仝
         (我、此句は三句のわたりゆへ、向へて附玉ふやと申ければ、うなづき玉ふ。)
       ”鴫ふたつ台にのせてもさびしさよ”     北枝
         (はこびよしと称し給ふ)
       ”あはれに作る三日月の脇”          仝
         (かくなる句もあるべしとぞ。)
       ”初発心草のまくらに旅寝して”        翁
         (かゝる句は、巻ごとにあるものなりと笑ひ玉ふ。)
       ”小畑もちかし伊勢の神風”          仝
       ”疱瘡は桑名日永もはやり過ぎ”       北枝
       ”ひと雨ごとに枇杷つはる也”          仝
       ”細ながき仙女の姿たをやかに”        翁
         (我感心しければ、翁も微笑したまふ)
       ”あかねをしぼる水のしら波”          仝
       ”仲綱が宇治の網代とうち詠め”       北枝
         (此句も、一巻のかざりと笑ひたまふ。)
       ”寺に使をたてる口上”              仝
       ”鐘ついてあそばん花の散りかゝる”      翁
         (ちらばちれと案事侍れど、風流なしとぞ。)
       ”酔狂人と弥生くれ行”              仝
         (其人の風情をのべたるなり。されど挙句は心得あるべしとしめし玉ふ。)
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by hirai_tom | 2010-06-26 21:39

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