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2010年 05月 01日

「道明様の想いも複雑で御座いますな。」
 「その後の娘さんの話は残されておりませんが、早逝された様です。悲しんだ道明は二人の逢瀬の場所にさくらの木を植え、娘“さくら”を偲び、月夜には道明の笛の音が瀬音と共に淵に流れたそうです。村人は何時しか、この淵を“道明ヶ淵”と呼ぶようになりました。」
 「上の平らには桜の古木が多く見られるが、春ともなればさぞや美しく咲き誇る事であろう」
 「はい、花見頃には町衆で賑わいます。」
 「所で、この渓谷に沿って遡る事は出来るのかな」
「はい、出来ない事は無いのですが、幾つか谷が御座います。“神絽木”と云う難所も御座います故に此処は、一度戻られまして、街中より上流に向かわれた方がよろしゅうかと。夜には、高瀬の漁火をご覧になるのも一興かと存じます。」
「其処では、如何なる魚が捕れますかな」
「はい、そろそろ、落ち鮎の季節でございます。櫻ウグイ・鰍も獲れるかと。」
「御師匠、決まりで御座いますな。北枝を誘って、高瀬の漁火見物と致しましょう。」

by hirai_tom | 2010-05-01 18:42

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